まだ寺ではなかったころ、ここに西宮の左大臣、源高明が住んでいた。
寝殿の南東の母屋の柱に木の節穴が開いていた。
夜になると、2、3日おきにその節穴から小さい子供の手が出てきて、人を手招きする。
大臣はこれを聞いて、気持ち悪いなと思って、その穴の上に、お経を括り付けてみた。
正体不明の怨霊の仕業ならば仏経が効くはずだが、なんの効果もなく、手招きは続いた。
ある人が、試しに、実戦用の征矢を一本穴に入れてみた。すると征矢を抜かない限り手招きは止んだ。矢尻だけを穴に打ち込んだところ、怪異はやんだという。
原因不明の怨霊には、仏経が威力を持つべきところ、武威が怪異を止ませたことを
当時の人はおそれ、怪しんだという。